値上げと同時に値下げする電気代に隠された電力会社のトリック

 電気代の値上げをめぐって、ドタバタが続いている。東京電力は4月から企業向けの大口電力の料金を値上げする方針を表明したが、西沢社長が記者会見で「料金の申請というのは、われわれ事業者としての権利ですので・・・」と述べたことが利用者の反発を呼び、西沢氏は1月31日、古川経済財政担当相に「至らぬところがあった」と謝罪した。

 しかし西沢氏の発言は正しい。大口電力(50kW以上)は自由化されているので、政府に料金を認可する権限はなく、東電は自由に値上げする権利があるのだ。それがいやなら、利用者は他の独立系発電会社(PPS)に変更すればいい、というのが原則論である。

 問題は、競争が起こっていないことだ。PPSなど電力会社以外の販売電力量シェアは、全国で3.5%しかない(2010年)。この最大の原因は、電力会社がPPSから徴収する託送料(送電線の使用料)が高いことだ。託送料は規制料金だが、高圧電力で4.89円/kWh。電力会社の大口電力料金は全国平均で13.65円だから、託送料は料金の36%にのぼる。

 電力事業はインフラ投資の固定費が大きいため、規模の利益が非常に大きい産業である。電力会社は多くの企業に送電するので単価が安いが、PPSの利用者は少ないので、電力会社より安い料金を出すのがむずかしく、もうからない。今あるPPSは、鉄鋼やガスなどの重厚長大企業が工場で発生する熱を利用する副業としてやっているのがほとんどだ。

 他方、東電は小口の電気代を1月から値下げし、標準家庭で25円安い月額6870円になる。これは燃料費の変動を毎月の料金に反映させる「燃料費調整制度」によるもので、原油価格などが円高の影響で下落したためだ。原発の停止で燃料費は大幅に増えているのに、小口はそれを電気代に転嫁できない。これは大口が自由化されているのに対して、小口(50kW未満)が規制料金だからである。

 よく電力会社が「総括原価方式」だといわれるが、それは小口だけの話で、大口は自由競争である。電力会社は、この二重構造を利用して高い利潤を上げてきた。図のように東電の規制部門(主に小口電力)の販売電力量は全体の38%だが、営業利益の91%は規制部門から上がっている。実質的には、小口の黒字で大口の赤字を補填しているといわれる。

 2000年代初頭の電力自由化をめぐる経済産業省との攻防で、電力会社は大口電力の自由化を許したが、小口の自由化を先送りした。つまり規制されている小口料金を高くしてもうける一方、自由化された大口料金を安くして託送料を高くすることでPPSの参入を防ぐ巧妙なトリックなのだ。これは通信でいえば、(黒字の)長距離電話の料金を規制して(赤字の)市内電話を自由化するようなもので、参入が起こるはずがない。

 電力自由化といえば、最近は発電と送電の分離がよく論議になるが、かつて経産省が村田事務次官を初め総力をあげてもできなかった発送電分離が、今の足元のふらついた民主党政権にできるとは思えない。競争促進のために重要なのは、電力会社の独占利潤の源泉になっている小口電力の自由化なのだ。これはもともと自由化のスケジュールに組み込まれていたことを予定通りやるだけなので、政治的には発送電分離より容易であり、効果も大きい。

 ただ小口電力は通信と同じく、電力計などの「最後の1マイル」への投資が莫大な額になるので、参入は容易ではない。この点でスマートメーターの導入は、小口電力自由化のチャンスである。電力会社は自社しか使えない「ガラパゴス型」のスマートメータを導入しようとしているが、経産省や総務省は全国共通の標準化されたメーターにすべきだと主張している。

 スマートメーターを標準化してPPSも同じ条件で使えるようにすれば、発送電を分離しなくても、新しいPPSが小口電力に参入できる。通信自由化でも、NTTを分割しなくても回線の開放規制だけでソフトバンクが参入できた。目的は競争を促進して電力コストを下げることであり、インフラはその手段にすぎない。電力業界を改革するには、「東電解体」を叫ぶより電力自由化の徹底によって競争にさらすことが本筋である。池田信夫(上武大学経営情報学部教授)


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