【世界激変 安倍外交の真価】首相、イデオロギーから現実主義へ変身 日米同盟修復にアピールを ★(1

 安倍晋三首相は今年1月に出版した『新しい国へ』(文春新書)で、「『戦後レジームからの脱却』が日本にとって最大のテーマであることは、私が前回総理を務めていた5年前と変わっていない」として、憲法改正や日米同盟強化、国に誇りを持つ教育を通じた真の「独立の回復」を目指す方針に変わりがないと訴えた。「ナショナリスト・安倍」の面目躍如だ。


 しかし、昨年末の衆院選前から、安倍首相は「デフレ脱出」を最優先する「アベノミクス」に全力を傾注。米国経済回復の追い風もあって早くも一応の成果をあげるなど、5年前の古色蒼然たる政治家のイメージを払拭している。国民も国会中継などを通じて安倍首相が「イデオロギーに偏った政治家」から「現実主義の政治家」に変身したことを実感し始めた。

 参院選の勝利で、衆参ねじれは解消され、次の国政選挙は衆院解散がなければ3年後の参院選となる。安倍首相は3年間のフリーハンドを手に入れたといえる。

 だが、先送りした諸課題が秋に一斉に押し寄せる。憲法改正に取り組む時間などない。

 アベノミクスの「第3の矢」である成長戦略は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の国内対策と連動し、農業・医療・保険などの規制緩和をはじめ、血の出る改革が必要だ。現状維持勢力は骨抜きを図る。来年春には消費税増税が控えている。税制改革と一体のはずの社会保障改革は頓挫したままだ。原発も継続か廃棄か方針を決めなければならない。

 いずれも自民党が分裂してもおかしくない難問ぞろいだ。目先の懸案対処だけでも1、2年はあっという間に過ぎる。

 内政課題を上回る難物が、民主党政権3年3カ月が残した「外交敗北」の後始末だ。

 ロシア大統領の北方領土上陸や、韓国大統領の竹島上陸、沖縄県・尖閣諸島をめぐる中国の威嚇外交。外務省との連携を欠いた、民主党政権による「政治主導」外交の失敗が「日本軽視」の連鎖を生んだ。中国、韓国は領土問題を歴史問題に結びつけ、日本の孤立化を図ろうとしている。

 しかし、根っこの問題は周辺諸国の「反日」ではなく、実は日米関係だ。民主党政権時代に揺らいだ日米同盟はまだ修復にほど遠い。オバマ政権さえ、近隣諸国の日本批判に配慮せざるを得ず、安倍首相の復古主義への懸念を隠さない。政権誕生時、米紙は「日本右傾化」を大きく報じた。米国内の空気は様変わりしている。

 背景には、日本の相対的な国力低下だけでなく、米国経済の衰退と人口構造変化がある。安倍首相は変身した現実主義の政治家としての姿を、米国に強烈にアピールし続けるべきだ。



【世界激変 安倍外交の真価】「人権の国」で影響力増す中韓系米国人 反日で“成果”も★(2)
2013.08.07
 米連邦政府国勢調査局は昨年12月、「2010年の国勢調査に基づく最新の人口動態予測」を発表した。現在63%ある白人の人口が60年には43%に低下。ヒスパニックは17%から31%、アジア系も5・1%から8・2%、黒人も13%から15%に増えるという予測だ。

 つまり、50年以内にマイノリティーの総数が多数派になる。米国はもはや、WASP(ワスプ=アングロ・サクソン系のプロテスタントの白人)の国ではない。

 昨年の米大統領選の出口調査を見ると、アジア系の73%がオバマ大統領を支持し、ヒスパニック票の71%を上回った。

 1965年にはわずか1%弱だったアジア系の伸び率は、新規移民だけを見るとヒスパニックを抜いて1位だ。国内出生率も高い。さらにアジア系新規移民の60%以上が大学卒で所得も高く、西海岸地域の地方自治体で強い政治力を発揮している。

 第1次安倍晋三政権時代の2007年7月、米下院本会議は「従軍慰安婦の対日謝罪要求決議」(下院121号決議)を採択した。文化大革命や、天安門事件などで迫害を受け中国から逃げてきた人や、台湾から来た人が結びつき一大勢力となった。

 彼らは旧日本軍の残虐行為を告発し、70年代からは琉球諸島(沖縄)の台湾への奪還運動を行っている。それと新興の在米韓国人グループが合流し、大きな「反日」の流れを作り、在米華僑らの財力で人権意識が強い政治家をロビーした結果がこの決議だ。各地に建つ「慰安婦の碑」も運動の「成果」だ。

 今年5月、米議会調査局(CRS)は「安倍首相や閣僚の歴史問題に関する発言や行動は地域の国際関係を混乱させ、米国の国益を損なう恐れがある」というリポートを出した。CRSが06年に出した慰安婦問題リポートは下院決議に結びついた。年々増える中韓からの留学生の何人かは米国家機関などに就職、草の根レベルで影響力を増す。

 米国で「第2次世界大戦当時、売春は必要悪だった」流の論理は通用しない。すべてを現在の人権思想で割り切る。「お前の娘が慰安婦にされたらどうする」の問いに親日派グループも反論できない。「流血の公民権運動で勝ち取った人権」の歴史は、日本人が思う以上に確固として米国に根付いている。

 オバマ政権は、国連大使に人道主義的タカ派のサマンサ・パワー氏を任命した。前任者の人権派、スーザン・ライス氏は国家安全保障担当大統領補佐官に就任した。駐日大使になるキャロライン・ケネディ氏を含めた「女性三羽烏」はオバマ政権の人権重視外交の象徴でもある。

 安倍首相は当面、「河野談話」見直しを口にしない方がいい。

【世界激変 安倍外交の真価】米中戦争を避ける「リバランス」戦略 日米よりも古い米中関係
2013.08.08
 米政府は、オバマ大統領の来春訪日を軸に検討に入った。米国は日本に何を求めているのか。経済再生と並んで重要なのは、中国との早期関係正常化だ。

 第2次オバマ政権は、アジア太平洋シフトを強める。デトロイト市が米連邦破産法第9条の適用を申請し財政破綻した。シェールガス革命で明るさは出たが、疲弊した米経済の離陸は簡単でない。世界の成長センター、アジア太平洋の活力を取り込むことが死活的に重要だ。

 その手段が、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)。最終的にはGDP世界2位の中国の参加も見込むだろうが、当面はGDP世界3位の日本が入らなければ意味がない。

 米国が、中国の太平洋進出や軍備拡張を気にしないわけがない。しかし、米中関係を冷戦時代の米ソ関係にしないことがオバマ政権の基本戦略だ。

 キッシンジャー元国務長官は今年4月、中国の習近平国家主席の米国訪問に先立って訪中し、習主席に対して「大国間の新しい関係」構想を吹き込んだ。「戦争せず、ウイン・ウインでお互いもうける」という内容で、1972年のニクソン訪中を構築した「力の均衡」理論=キッシンジャー・テーゼがオバマ外交にも引き継がれていることを示した。

 米カリフォルニア州パームスプリングズで6月7、8日、オバマ大統領と習主席が行った首脳会談については、さまざま報じられている。ただ、両首脳がこの基本線で合意したことは間違いないだろう。

 キッシンジャー氏は『キッシンジャー回想録 中国』(岩波書店)で、アヘン戦争以来の中国の歴史を振り返り、ニクソン訪中の歴史的意義を強調している。日本人がよく忘れるのは「米中関係が日米関係より古く、穏やかだった」という事実だ。

 1853年のペリー来航は軍艦(黒船)による砲艦外交だった。その69年前の1784年、米国から初の貿易船「中国皇后号」が中国・広東に到着し、交易を始めた。米国はアヘン戦争では中立の立場を取った。義和団戦争で8カ国連合軍が中国に勝利した後、中国は巨額な賠償金を支払ったが、米国はそれを基金に清華大学を設立した。戦前の日本は米中関係の深さを知らず、戦争に深入りして自滅した。

 米国のアジア太平洋シフトは「ピボット(軍事的回帰)」ではなく、「リバランス(再均衡)」だ。米中は対立もするが、絶対に戦争を避けるという大原則の範囲内での対立だ。だから、オバマ政権は沖縄県・尖閣諸島における日本側の対応を「対中戦争のきっかけになり得る」と懸念、自制を呼びかけている。

 米アジア太平洋戦略の基本は、日米中の緊密な経済関係構築と、日米韓同盟などを中国の軍事力とバランスさせることによる中国牽制だ。習主席は6月の首脳会談でそれを理解したはずだ。

【世界激変 安倍外交の真価】弱体化した日米同盟強化への欠かせぬ一歩 集団的自衛権の解釈変更 ★(4)
2013.08.09
 グアムで行われた日米合同離島奪還訓練に参加した陸上自衛隊。同盟強化には集団的自衛権の行使容認が不可欠だ

 米国は、日本に対して「経済再生」「中国との関係正常化」とともに、「米軍と自衛隊の連携強化」を求めている。ただ、オバマ政権は、安倍晋三政権の憲法改正が、中国、韓国両国との決定的対立構造をつくることを懸念しており、現時点での9条改正には、いい顔をしないだろう。集団的自衛権行使を認める憲法解釈変更で、要求には十分応えられるからだ。

 安倍政権は年末に策定予定の新防衛大綱に合わせ、集団的自衛権解釈変更の作業を進める意向だ。連立与党の公明党が慎重で、作業は難航が予想される。空洞化寸前まで弱体化した日米同盟の強化には欠かせない一歩だが、日本の専守防衛の概念を根本から変える大改革でもあり、変更手続きはフェアで国民に開かれた形をとらなければ後世に悔いを残すだろう。

 1981年5月、鈴木善幸首相(当時)が、レーガン米大統領(同)との首脳会談後、「日米安保条約は軍事同盟ではない」と発言し、伊東正義外相(同)が引責辞任した。高度成長で豊かになった日本は安全保障を軽視し、在日米軍基地を「迷惑施設」と呼んだ。

 鳩山由紀夫氏が首相就任前に「駐留なき安保」を提唱したのも身勝手な理屈だ。同盟はお互いにメリットがあるから結ぶ。吉田茂首相が結んだ旧安保は、米国に日本防衛義務がなく、日本が一方的に基地を提供した片務条約だった。

 岸信介首相の60年安保改定で双務条約になったが、日本は米国を防衛する義務を負っていない。その代わり、米軍は日本の基地を極東の平和と安全のために使える。この部分が米国のメリットだ。米軍が日本有事に来援して守ればいいという「駐留なき安保」は、米国にメリットのない片務条約化を意味する。そんな同盟は長続きしない。

 冷戦終焉でソ連が消滅した後、日米安保体制は空洞化の危機に陥った。米国は日本を経済仮想敵国扱いした。安保体制を強化し、日米同盟を救ったのが橋本龍太郎政権のガイドライン改定と日米安保共同宣言だった。小泉純一郎政権はその有事法制化を進めたが、その後の世界激変で新ガイドラインも必要な情勢となった。その前に、まず集団的自衛権なのだ。

 将来の話だが、中国軍の沿岸接近阻止が実現すると、米海軍の西太平洋接近が困難となり、台湾、沖縄だけでなく、日本列島周辺海域も中国の中距離対艦ミサイルの射程圏に入る。米軍が危険な日本や朝鮮半島を捨てて、グアムやハワイまで下がる可能性もある。

 その時、拡大核抑止による日本防衛は担保されるのか。安全保障の真空地帯は紛争を呼ぶ。日本が東アジアの不安定要因になってはいけない。

【世界激変 安倍外交の真価】関係正常化 中国は早急に、韓国は急がず静観すべし★(5)
2013.08.11


 中国や韓国とどう付き合えばいいか-。水面下で対日関係修復を探り出した中国とは早急に対話し、世界規模の問題(地球温暖化など)や、地域の問題(通貨など)、二国間問題(公害防止協力など)を同時並行で協議するのが得策だ。尖閣領有権はお互い平行線の主張を続けるしかない。

 「解決せざるを持って解決とみなす」という竹島方式で“棚上げ”するしかない。日本は沖縄県・尖閣諸島の領土問題で絶対に譲歩すべきではない。一日も早く、第1次安倍晋三政権が作った戦略的互恵関係に戻ることだ。話し合いを続ければ偶発的衝突の危険も減る。

 中国軍の継続的拡充には注意し、「安全保障の穴」を作らないように南西諸島防衛の強化など、万一の備えを怠らないことも大切だ。

 関係正常化は、経済発展という中国最大の「核心的利益」に利する。習近平執行部が10月開催予定の中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)で体制を強化、国内のナショナリズムを抑える力を持てるかどうかも焦点だろう。

 韓国は当面静観し、国を挙げての反日の雰囲気がおさまるまで待つしかない。朴槿恵(パク・クネ)大統領は、左派から「親日家(売国奴と同じ意味)朴正煕(パク・チョンヒ)の娘」と批判されており、「日本憎し」と国中がカッカしている状況を打開する力はない。

 韓国は「日本外し」をしたうえで、米中の仲介役を果たそうと、中国に急接近している。だが、日中関係が正常化すれば、韓国内で対日修復の必要性が叫ばれるだろう。

 日韓基本条約50年となる2015年までに安倍晋三首相と朴大統領が、98年に小渕恵三首相と金大中(キム・デジュン)大統領が署名した「日韓パートナーシップ共同宣言」並みの共同文書を出せるよう、今から水面下で努力すればいいのではないか。
 安倍政権は対中修復に全力をあげる一方、成果をあげているロシア、東南アジアなどへの「全方位外交」を深化させることも必要だ。

 中韓両国は、歴史的に軍事力の弱さを外交力で補おうと国際交渉能力を鍛えた。島国で外交下手の日本はなまじの努力では追いつけないだろうが、国家安全保障会議(日本版NSC)創設は大きなチャンスだ。長期・中期・短期の国家戦略を検討し、決定して国益中心外交を着実に進めれば外交力もアップするはずだ。

 日本は当面、米国の拡大核抑止の下で生きるしかない。オバマ政権は残り3年で「核なき世界」政策と人権外交に全力で取り組むだろう。日本は広島、長崎の経験を生かすなどして世界的課題についても積極的にアドバイス、日米同盟を米英同盟並みにレベルアップすべきだろう。 =おわり
■長田達治(おさだ・たつじ) 1950年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒。毎日新聞社入社、政治部副部長、ソウル支局長、学生新聞編集部長、紙面審査委員会委員などを経て、ジャーナリスト、月刊誌編集・発行人、一般社団法人専務理事。著書に「細川政権263日」(行研)、「橋本龍太郎全人像」(共著、同)などがある。

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